ロシア語の形容詞

ロシア語の形容詞は、修飾する語の性と数によりその語尾が変化する。しかし、綴りの規則を知っていれば
見た目で判断できるので、動詞の場合より易しい。

形容詞の硬変化

硬変化は、語尾にアクセントがかかるか否かで男性の形が異なる。なお、形容詞のアクセントは、長語尾(この記事で取り扱う形)の変化に際して一切変化しない。

語尾にアクセントがない場合

男性 女性 中性 複数
語尾 -ый -ая -ое -ые


новый (新しい)
новый карандаш (新しい鉛筆)
новая книга (新しい本)
новое здание (新しい建物)
новые часы (新しい時計) ※часы (時計) 常に複数形

語尾にアクセントがある場合

男性 女性 中性 複数
語尾 -ой -ая -ое -ые

アクセントを赤字で示した。

голубой (水色の)
голубой цвет (水色)
голубая ручка (水色のペン)
голубое пальто (水色のコート)
голубые очки (水色の眼鏡) ※очки (眼鏡) 常に複数形

軟変化

軟変化はアクセントが語尾にかかることはない。

男性 女性 中性 複数
語尾 -ий -яя -ее -ие


синий (青い)
синий платочек (青いスカーフ)
синяя роза (青い薔薇)
синее море (青い海)
синие глаза (青い目) ※глаза→глаз (目) の複数形

混合変化

参考書等では混合変化として、上記の変化と別のものであるかのように紹介されていることが多いが、そのような見方では記憶負担量が大変なものになる。ここでは、混合変化は、硬変化から派生するものとして説明する。

混合変化の例

まずは混合変化とされるрусский (ロシアの)の変化を記す。
русский (ロシアの)
русский язык (ロシア語)
русская песня (ロシアの歌)
русское кино (ロシア映画)
русские люди (ロシアの人々) ※люди→человек (人間) の複数形
このように、硬変化と軟変化が混ざったような変化をしている。これが混合変化と呼ばれる所以である。

混合変化の理由

上記のようなおかしな変化は、正書法の規則により起こされている。それを詳しく説明する。
русский
の語幹は
русск-
である。アクセントはуにある。
混合変化はもとが硬変化であると考えるので、男性形では-ый の語尾をもつはずである。しかし、正書法の規則から、кの直後のыは自動的にиになってしまうので、男性形は
русский
となる。
続いて女性形では、硬変化では-ая の語尾を持つ。これは正書法の規則と関係ないので、女性形は
русская
となる。同様に中性形も
русское
である。最後に複数形は、正書法の規則により語尾の-ыеが-иеとなるので、複数形は
русские
となる。

語尾にアクセントがある場合


большой (大きな)
большой театр (ボリショイ劇場)
большая машина (大きな車)
большое количество (多量、多数)
большие деньги (大金) ※деньги (お金) 常に複数形
оは正書法の規則と関係ないので、複数形以外は語尾にアクセントがある硬変化と同じ形である。

綴りとアクセントの規則が働く場合


хороший (良い)
хороший человек (良い人間)
хорошая погода (良い天気)
хорошее настроение (良い気分)
хорошие друзья (良い友人たち) ※друзья→друг (友人) の複数形
アクセントは語幹にある。この変化は、中性形以外はрусскийと同じである。中性形が異なる理由は綴りとアクセントの規則による。それによると、шの直後の、アクセントの無いоはеになるので、語尾の-оеが-ееになる。一方、большойの場合はоにアクセントがあるので、еに書き換えられることはない。

ロシア語の綴りに関する規則

ロシア語には、綴りに関する規則が二つある。これを知らないと形容詞や格変化の学習に重大な支障をきたす。

1 正書法の規則

г, к, х, ж, ч, ш, щ の直後
я, ю, ы はそれぞれ
а, у, и に置き換わる


сидеть (座っている) 歯音変化
語幹
сид-
歯音変化なので、一人称単数形ではд→жの置き換えが起こる。
それに一人称単数の語尾-юをつければ一人称単数形は
сижю
となりそうであるが、正書法の規則からжの直後のюはуに置き換えられる。
よって、最終的に一人称単数形は
сижу
となる。

2 綴りとアクセントの規則

ж, ч, ш, щ 及びц の直後のアクセントのないоはеに置き換わる
この規則は上述の正書法の規則ほど使う頻度は高くないが、形容詞の理解には不可欠である。

ロシア語動詞の第二変化と歯音、唇音変化

動詞の現在規則変化には、第一変化の他に第二変化がある。また、第二変化に関連した変化として歯音、唇音変化がある。

動詞の第二変化

動詞の第二変化は、第一変化と似たような手順で行える。第二変化動詞のговорить (言う、話す)を例に解説する。

1.語尾の-ть及びそのひとつ前の文字をとる

говорить→говор-

2.人称に合わせて、以下の表の語尾をつける
単数 複数
第一人称 -им
第二人称 -ишь -ите
第三人称 -ит -ят

говоритьであれば
Я говорю 私は話す
Ты говоришь 君は話す
Он говорит 彼は話す
Мы говорим 私達は話す
Вы говорите 君たちは話す もしくは あなたは話す
Они говорят 彼らは話す
となる。

歯音変化

第二変化の動詞中、語幹末の子音字がある特定のものであるとき、第一人称単数に限り子音の交代が起こるものがある。そのような動詞は歯音変化の動詞と呼ばれる。

歯音変化の方法

第二変化動詞の語幹末の子音字がд, з, с, т, стの時、それぞれд, з→ж, с→ш, т→ч, ст→щ と置き換える

переходить (歩いて渡る) 第二変化
語幹
переход-
一人称単数形
Я перехожу 私は歩いて渡る

  • Я перехожю ではない。ロシア語には正書法の規則と呼ばれるものがあり、жюという綴りは許容されない。

唇音変化

第二変化の動詞中、語幹がある特定の語尾を持っているとき、第一人称単数に限り子音字лが語幹と語尾の間に挿入されるものがある。そのような動詞は唇音変化の動詞と呼ばれる。

唇音変化の方法

第二変化動詞の語幹末のの子音字がф, в, п, б, мの時、子音字лを語幹と語尾の間に挿入する

любить (愛する) 第二変化
語幹
люб-
一人称単数形
Я люблю 私は愛する











ロシア語の人称代名詞と動詞の第一変化

ロシア語の動詞の現在形は、英語と違い、不定形を単に名詞につなげるだけでは不正確で、全ての人称についてそれぞれ別の形を用いなければならない。また、動詞がどのような現在変化をするのかを見た目から判別することは基本的には不可能であり、辞書を参照する他ない。

人称代名詞

単数 複数
第一人称 я (私) мы (私達)
第二人称 ты (君) вы (君達、あなた)
第三人称 он (彼)、она (彼女)、оно (あれ) они (彼ら、あれら)
  • он、онаは、人間以外にも、それぞれ男性名詞や女性名詞を指すことができる。また、複数形は性に関係なくすべてониである。
  • 丁寧語で話すような相手と話すような場合は、相手を指す代名詞としてвыを用いる。(実は、英語でもかつては二人称単数の代名詞thouが存在し、youは二人称複数及び敬称として用いられていたが、thouは廃れてしまった。)

動詞の第一変化

動詞の不定

ロシア語において、動詞の不定形は-тьの語尾を持つものがほとんどである。他にも、-ти、-чиの語尾を持つものもある。

разговаривать (会話する)
изучать (学ぶ、研究する)
помочь (助ける)
увезти (運び去る)

動詞の第一変化

先に述べたように、ロシア語の動詞は全ての人称ごとに異なる形をとる。ここでは、最も基本的な規則変化である第一変化動詞の変化のさせ方を、第一変化動詞であるизучатьを例に解説する。

1.語尾のтьをとる

изучать→изуча-

2.人称に合わせて、以下の表の語尾をつける
単数 複数
第一人称 -ем
第二人称 -ешь -ете
第三人称 -ет -ют

表を用いると
Я изучаю 私は学ぶ
Ты изучаешь 君は学ぶ
Он изучает 彼は学ぶ 
Мы изучаем 私達は学ぶ
Вы изучаете 君たちは学ぶ もしくは あなたは学ぶ
Они изучают 彼らは学ぶ
となる。他にも第一変化の動詞としてразговаривать、читать (読む)、открывать (開ける) 等がある。

ロシア語における名詞の文法性

ロシア語の名詞は、三種類の性(男性、女性、中性)のいずれかに属する。この分類には、その名詞が何を指しているかと基本的には無関係である。ロシア語の文法性は多くの場合語末の文字で判別できるので、以下にその方法を記す。

男性名詞の見分け方

名詞の語末が 子音字, й, ь のいずれかであること

товарищ (同志)
чай (お茶)
конь (馬)

女性名詞の見分け方

名詞の語末が а, я, ь のいずれかであること

книга (本)
неделя (一週間)
площадь (広場)

中性名詞の見分け方

名詞の語末が о, е, ё, мя のいずれかであること

яйцо (卵)
поле (野原)
житьё (暮らし)
имя (名前)

補足

語末がьの名詞について

上に記したように、ьで終わる名詞は男性、女性両方の可能性があるが、それを見分けることは少数の例外を除いてできない。なので、一語一語覚える必要がある。

語末がмяの名詞について

これは一見、яで終わる女性名詞に見えるが、яの手前にмが来て語尾がмяとなっている場合は必ず中性である
この語尾を持つ名詞はロシア語を通して十語ほどしかない。その中でも、имяとвремя (時間)は使用頻度が高い。

語末がа、яの男性名詞

男性を指す名詞であっても、女性名詞のような語尾を持つものがある。

мужчина (男性)
дядя (叔父)
これらは男性名詞として扱う。ただし、格変化は女性名詞と同じである。このような例を見ていると、完全に文法性と自然性が無関係とは言い切れない気がする。

ロシア語におけるbe動詞について

ロシア語のbe動詞であるбытьは重要な動詞であるのにも関わらず、初学者には軽んじられることが多い。この記事ではбытьの現在形の用法とともに、軽んじられがちな原因について解説する。

 бытьの現在形

бытьはロシア語にしては珍しく、現在系では人称に関わらず全てестьという形になる。なので
私は学生です
Я есть студент
彼らは生徒です
Они есть школьники
あれは家です
Это есть дом
という露文を作れる。
さて、ここで私の持っている教科書の第一課のタイトルを見てみると
第一課 Это дом (あれは家です)
と、естьが用いられていない。実はロシア語においては
現在系のестьは省略されるのが普通
だからである。なので、上に挙げた例文もестьを省略して
私は学生です
Я студент
彼らは生徒です
Они школьники
あれは家です
Это дом
とするのが普通である。
学習の初期段階においては現在系の文章を学んでいくのが普通であるため、初学者はбытьを軽んじがちなのであろう。

естьの用法

естьは省略されることが多いが、以下の状況では省略しない

存在を強調するとき

インターナショナルのサビで

Это есть наш последний и решительный бой (これこそが最後の決戦だ)

という歌詞があり、通常ならば省略されるестьが強調のために残されている。

естьを言わないと意味不明になるとき

例えば、時間(время)があると言うときに、естьを省略しては意味が通じなくなるので

Есть время (時間がある)

と言う必要がある。他にも、~はありますか? は Есть~?と聞く。

他にも、論文調の文章ではестьは省略されない。